「発展途上国の生活向上に果たす家庭科教育の可能性」

章構成
1、研究の動機・目的
2、先行研究にみる「開発」と「教育」の関係について
3、日本のNGOにおける援助活動について
4、発展途上国における生活課題について−NGO活動から見える生活の実態と問題点について−
5、これからの開発と生活の質の向上について

【目的】
発展途上国にはさまざままな様々な生活課題がある。生活課題の主な要因は貧困であり、貧困を克服する一つの方策は経済開発である。発展途上国では女性や子どもが弱い立場にあり貧困による矛盾が集中し、多くの生活問題を抱えることになる。よってこれらの人々の貧困から抜け出すことを念頭に解決策を考える必要があろう。生活課題の解決には生活を担う人々が生活を変えていく力を付けることが(=人間開発)必要である。人間開発は生活の営みの多くを担っている女性に対して特に必要とされる。
 そこでまず第一に、発展途上国の生活課題にはどのようなものがあるか、何が必要とされているかを探りこれら生活課題の解決に果たす教育の役割を特にその中での日本の家庭科教育の役割を探った。

【方法】
発展途上国の生活課題を把握し、その解決には何が求められているかを調べるために、まず第一に『NGOダイレクトリー‘98』により、日本のNGO団体が行っている国際救助活動の内容を分析した。次に生活課題を詳しく知るために国際救助活動を行っている都内、神奈川県内のNGO団体に対し、質問紙により救助国の生活課題の実態及び課題、またその解決に必要とされている方策について調査を行った。以上2つの調査から得られた結果を元に、生活課題を解決するために必要な事柄を明らかにし、家庭科教育との関わりについて考察した。

【結果及び考察】
 『NGOダイレクトリー‘98』によれば、NGOの活動では教育に関する活動と生活に関する活動が多かった。領域に関わりなく、多くが資金援助の形態をとっていた。教育に関する活動では基礎教育への援助が多く、生活に関する活動では、生活福祉・保健衛生・生活自立向上に対する援助が多かった。アンケート調査によれば対象者の抱える問題を  解決し、生活を向上させるためには、生活全般にわたって考える必要があり、それには 住民自身が意識変革を遂げ、生活の主体者となっていくことが求められていると感じて いる団体が多かった。そのためには何よりも、自分たちの生活問題を解決し、よりよい 生活を創造していくための能力を身につけることが必要であり、基礎教育・衛生栄養知識、職業訓練が養成されていることが明らかになった。
 日本の家庭科教育は女子教育の中心的教科として、生活の向上を目指し、生活課題を解決する能力を養うことを教育の目標とし、衛生栄養教育や裁縫などの技術教育を担い、女子の職業教育と結びつき生活の向上に貢献してきた。その経験は女子教育・生活能力の育成という、発展途上国が今日直面する課題に多くの示唆を与える。すなわち家庭科教育が貯蓄してきた生活能力育成に関する教育内容や方法の多くは、これからの発展途上国の生活向上に貢献できる可能性は大きいといえる。